複数ある転職の考え方。「やりたいことの為に転職しよう」の罠とは?

2019年7月25日

成毛眞氏による本「決断」という本をご存知でしょうか?

この本は、大企業に長年務め続けたベテランの男性が、転職をするか、もしくはしないのか、で「どのように決断を下したのか」にフォーカスを当てた本です。よくありがちな転職本とは異なり、きちんと転職しなかった人にもフォーカスを当てています。

その本の主張は「やりたいことをやるために転職しよう」というもの。まあ、よくありがちと言えばありがちですが、本当にそうでしょうか?
いくつか転職をめぐっては考え方があるので、ご紹介します。

転職をめぐる考え方にはいくつかある

転職や副業を考えるときに、いくつか考え方の違いがありますよね。
もちろん「転職なんて悪だ」という思い込みレベルの考え方もありますが、そういうのは一旦排除すると、こんなものではないでしょうか。

  1. 「やりたいこと至上主義」派(やりたいことのために転職しよう!)
  2. 「とにかく市場価値を上げていけ」派(社会人たるもの、市場価値を上げるのは当然だ!)
  3. 「自分の価値を上げたいからやるんだ」派(金と社会的地位にこだわるからやるんだ!)
  4. 「転職じゃなくて現実を見ろ」派(転職で収入アップとか甘いわ!現実を見ろ!)

この記事では特定の立場を応援することはしません。いくつかの考え方を紹介するので、考えるきっかけにどうですか?というのが本記事の趣旨になります。

ちなみに、網羅とかはしてないです。あくまでいくつかを紹介しているだけです。
なので、こういうのもあるよ!というのがあれば、ぜひコメントをいただければ幸いです。

転職の考え方1:人間、好きなことをするのが良いんだから転職すべきだよ派

彼らの主張は、最も一般的なものです。つまり、好きなことをするほうがQOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)も生産性もはるかに上るんだから、ソッチのほうが良いだろ!という考え方です。
そして、好きなことをやっているのであれば収入が下がったとしても幸せである、と続くことが多いです。

確かに、これは一つの事実の側面ですね。世の中には、あなたが嫌がることでも寝ても覚めても考えている人間というものが存在します。
例えば、あなたが嫌々ながら好きでもないバイク屋を経営しているとします。バイクなんかもう嫌だ、さっさと家に帰ってビール飲みたい。あなたがそんなことを考えている一方で、隣のバイク屋の主人は朝から晩までバイクのことを考えているとします。バイクが好きで好きで仕方がなくて、もう24時間やっていられる。そんなタイプの人です。

あなたのバイク屋はこの人に勝てるでしょうか?結論から言うと無理でしょう。
あなたがビールを飲んでいる間も、そのバイク屋はバイクを弄ってるからです。
勝ち目なんかないわけです。これが好きなことを仕事にしている強みなのです。

これがバイク屋でなくて、あなたの仕事だったらどうでしょうか?あなたは仕事が嫌でも、実は朝から晩までその仕事に打ち込んでいる人がいるとしたら?勝てないですよね?なら、さっさと辞めて、好きなことをすればいい。そういうロジックです。

でも、この考え方にも欠陥があります。それは収入面です。好きなことをやっているから、収入もアップするよ、というのは相当無理がある主張です。好きでバイク屋を始めてでも、あなたの収入は1/3くらいになる可能性はあります(無収入すら有り得ます)。それで現実的に生活できるでしょうか?好きだからなんとかなる?なりません。あなたの「好き」と生活上の出費は本質的に無関係だからです。特に始めたてはそうです。

転職で好きなことをしよう派は、この事実を軽視する傾向があります。そのため、夢物語でカッコいいのですが、どこか現実味を欠いた主張になることが多いです。好きなことをするにしても、とりあえずは生活上の出費をどうするか、などはきちんと考えておく必要があります。

転職の考え方2:社会人たるもの、とにかく市場価値を上げていけ!派

この派閥が主張するのは転職は好きなことをやりたいからではなく、社会人としてあなたの市場価値を上げるためのものだ、と言うものです。言い換えれば好きなことなどは関係なく、転職先企業で評価されれば社会的評価が上がり、あなたも企業もハッピーになるからやるべきだ、ということです。

確かに市場価値を一切考えなくなると悲惨なことになります。最も典型的なのはいわゆる窓際族でしょう。彼らは自分が転職市場では評価されないことを知っているので、転職ができないわけです。その一方で今の企業はかなりのお金を支払っているため、辞めるに辞められなくなっています。しかし企業側から見るとこのような人たちはお荷物に過ぎないので、なるべく雑に扱って追い出そうとするのです。
このような関係に至った結果、いわゆる窓際族が誕生してしまうわけです。
いまだにこのような慣行は日本企業に根付いている部分があります。

この市場価値と関連してよく語られるのが、日本の雇用規制です。日本企業の生産性は先進国の中でも低めであることがよく取り沙汰されています。その理由を窓際族のような会社に貢献をしていないのに雇用されている人々に求めます。そして日本もアメリカのように「転職がもっと認められるような社会になるべきで、それには雇用規制の撤廃が必要だ」と訴えます。労働市場が流動化すれば、日本企業の生産性もトータルで見れば上がっていくはずだと主張するのです。

筆者は個人的にはこの労働市場での価値を上げていくために全てのサラリーマンは努力をすべき、と言う主張はあまり好きではありません。なぜならば労働市場での価値と言うものは極めて狭い、いい加減な範囲でしか評価されていないものだからです。例えば脱サラをして農家になると言う選択肢もあるのにも関わらず、まるでその選択肢を「敗者の選択」であるかのように見下しがちです(「年収=社会的価値」という考え方なので、「年収が下がる=失敗扱い」になる)。
つまり、ものすごく狭い世界の話なんですね。

すべてのサラリーマンが市場価値を高めるべき、と言う意見は「全ての高校生は東大を目指すべき」という価値観に似ています。別に東大に入りたくない高校生が居ても良いはずです。大学進学を無視して部活に打ち込んでも、本人にとってそれで良いのであれば別に構わないと思います。
筆者はそう思っているので、全てのサラリーマンは市場価値にこだわるべきと言う説は、説得力があまりありません。

転職の考え方3:好きなことより、自分が貰えるリターンが増えるからやるんだ派

これはちょっと少数派の考え方かもしれません。好きなことも転職市場での価値も関係なく、自分がもらう報酬や社会的な価値が増えるから転職をするんだ、と言う考え方です。

これはお金目的で起業したいと言う人に似ています。とにかく今までの経験等は一旦置いておいて、報酬がたくさんもらえるのでこの市場で企業を作る。うまくいかなかったら努力をして儲かるようにする。お金目的で起業するとこのような考え方になります。
これを転職市場でやろうとすると「この企業に居続けるのは得策ではない。市場全体が伸びている成長市場に行った方が良い。なぜならそこに行けば、生涯年収もたかが知れている今よりもずっと良いリターンが貰えるはずだからだ」ということです。

実際に大手企業でそれなりのキャリアを積んでいるのであれば、株式公開を予定しているベンチャーに経営幹部として助言し、株式公開に数億円の報酬を手にすることもできます。夢物語かもしれませんが、世の中には毎年そのようにして報酬を得ている人がいるので、できない話では無いのです。

この考え方で難しいのは、あくまで転職が目的なので、自分をどのように有能に見せるかと言うテクニックに話の焦点がずれがちなことです。つまり小手先のテクニックで誰かに気に入られて報酬を得よう、と言うなんとも嘘くさい話に落ち着いてしまうこともある、ということです。なのでこの考え方には自分の見せ方と、自分がどう企業に貢献するつもりなのかを自分の中できちんと明らかにしておく必要があります。

結局のところ、最初に良い報酬が得られたとしても小手先のテクニックで得たものであれば長続きはしません。社会的なあなたに対するイメージにもダメージを与えてしまうでしょう。
もしそのような成長産業でしっかりとした職を得たいのであれば、長期的にリターンが得られるようなスキルを身につけることと、きちんと交渉をすることです。それができないと見くびられてしまうのが、なんとも難しいところと言えるでしょう。

転職の考え方4:転職で収入アップとか甘いわ!現実を見ろ!派

さて、この考え方は転職したい人を阻む最も大きな理由ではないでしょうか。
転職なんかしたところで収入アップする方が珍しいんだから、転職などすべきではない。自分には守らなくてはいけない妻子もいるのに、そんな危ないことなんかやっていられるか、と言うのがこの「現実を見ろ」説の主張です。
確かに収入が下がる人もいます。転職そのものが大きなリスクである事は間違いありません。なので当然失敗する人もいます。
大手企業でそこそこおいしい職にありついていたのに、それを辞めてしまってから苦労している人も実際に存在します。筆者の知人の中では、大手企業の人事というおいしいポジションから、自分の田舎で弁当屋をするまでに転落してしまった人も知っています。現実は甘くないと言うのは、確かにその通りです。

でもちょっと待ってください。筆者が個人的にこの説のおかしいと思うところは、「転職で失敗するのは結果であって、目的ではない」ということころ。
これは「運転免許なんか取らないほうがいい、人を間違って轢いたらどうするんだ」と言う考え方と同じです。別に人を轢くために運転免許を取るわけではありません。運転免許をとって運転をするのならば、事故を起こさないように気をつけましょう、というだけです。
そのためには毎日運転するときに、きちんと気をつける必要があります。

転職も同じです。
最初から失敗するつもりでやるのはおかしいです。失敗するつもりではなく、どうやったら成功するかをきちんと考えて実行することが、転職での成功につながります。それは足りないスキルを身に付けることなのかもしれないですし、人脈を広げることになるのかもしれません。とにかくそのようなネガティブな考え方で転職に挑むのはやめておいた方が良いと言えるでしょう。

転職のいろんな考え方のまとめ

いかがだったでしょうか。
いずれの考え方もそれなりに根拠があり、それなりにおかしなところもあったのではないでしょうか。

どれも賛否両論でしたが、これを言われたときに言い訳の材料として使うことだけは避けてくださいね。どれに共感するか、どこがおかしいと思うのか、をきちんと読者のみなさんが自分で考えることで、理解が深まるでしょう。転職について考えるのであれば、まずはこういったところから考えてみてはいかがでしょうか。